ブウウーーンン……
それなりに楽しく読みました。が、こんなのは、こんなのは『ドグラ・マグラ』じゃない……っ! と思いました。『まんがで読破 ドクラマグラ』はただのダイジェストです。いやもうダイジェストにもなってないです。要約したにしても簡単にしすぎです。これでどうやって精神に異常をきたせと言うのでしょう。無理です。おびただしい犬の吠え声が聞こえる気がしません。時計の音も白々しい。
分かっていたのです。手に取ったときから。こんなに薄くてしかも漫画で、どうやってあの内容を収めるの? とたいへん疑問に思い、無理だろそりゃ、と瞬時に回答を自分の中で得たのですけど、いや案外うまくまとめているかもしれないという好奇心に負けたのです。そして、ええ、乱暴にまとめれば確かにこういう内容だろう、という程度だったことを確認したのです。夏目漱石『それから』を「友達に女を紹介して結婚させてから数年後に奥さんを奪う話」と紹介するような。
若林博士は正木博士に負けないくらい変態じみているし不気味で気持ち悪いのです。最後まで読んでも、カラクリがいまいち分からなくてもう一度読む、するとますますこんがらがってくる、それがまた呉一郎の様子とダブってきてだんだん自分も気持ち悪くなってくる、このあたりが『ドグラ・マグラ』の醍醐味だと私は思っているのですが、漫画だと普通に謎解きされた感じです。だからそれじゃ精神に来ないんだってば。
……と????? がやたら多いとか会話のややこしさとか、漫画だと文字じゃないから丸分かりで、混乱する余地があんまり残されていないのです。それに主人公は何かに恐れおののいている様子があるのですが、周囲の奇妙さが足りないから反応が極端な感じがして、そのくせ淡々としていて迫ってこない。思わず眉間にしわを寄せたくなるような、嫌悪感を抱かせる要素がおとなしめで物足りない。
私が一度というか何度もというか何度と無くというか馬鹿みたいに繰り返し繰り返しというか、とにかく原作を読んだことがあるから物足りなく感じるのかもしれないですが、何も知らないひとが漫画を読んで『ドグラ・マグラ』の内容を分かったような気分になってしまうのだったらそれは大いなる誤解だと説教したくなるでしょう。じゃあどんなふうに説明・解説するのだと詰められたら困るのですが。読んで聞かせるわけにもいかないし。記憶喪失で精神病院に入院している男が目覚めてすぐに読ませるには最適な本ですけれども、そうそう無いシチュエーションだもの。
小説の漫画化や映画化は、落胆したり残念に思ったりしながらも別の作品として楽しめる場合も多いのですけど、『ドグラ・マグラ』に関してはちゃぶ台をひっくり返したいような気持ちになりました。内容の分かりやすい『ドグラ・マグラ』なんて『ドグラ・マグラ』の風上にもおけん。
まんがで読破のシリーズは、みんなこんな感じなのかなあ。心配になって全部読む、という馬鹿な真似をしてしまいそうです。金銭的に無理だからしないけど。
週末の富士スピードウェイは、金曜夜に少し雨が降りそうな予報です。それで翌日晴れたら路面がいい感じに凍るわけだ。レースにはもってこいだ。
とまでは思えないので、朗らかに晴れてくれないかなー今週中ずっと、と思っています。