ルーブル美術館展-17世紀ヨーロッパ絵画-
待ち合わせた横浜で、会うなり突然の心変わりを見せた経済学者の意見に従い、本日は「疾走する本格ミステリーの騎士 島田荘司、その挑戦と冒険」ではなく、国立西洋美術館の「ルーブル美術館展-17世紀ヨーロッパ絵画-」となりました。「僕、ルーブルでも良いんだけど」ってお前……私が「土曜は島田荘司展に行く予定だ」と言ったら「僕も興味があるから一緒に行って良い？」という流れだったのに、当日の朝になって「ルーブルでも良いんだけど」は無いよ(笑)
ルーブルはそのうち行くつもりだったし、会期の残りが無くなれば無くなるほど混むだろうから思い立ったが吉日とばかりに行ってきました。彼が絵画に興味を持っているのも意外だったし。でも私は思いました。同行者が私だから問題ないだけであって、普通に意中の女性とデートだったらふられるだろうなこいつ、と。
さて、ルーブルは面白かったですよ。40分待ちに多少めげつつ「17世紀のヨーロッパって政治がどうとか僕全然覚えてないんだけど」「ガリレオが頑張ってたくらいしか……ニュートンとか」「火縄くすぶるフランス革命……よりは前か」「意欲に燃えるコロンブスよりは後だね」とお互い100年以上外れている世界史ダメっぷりを確認しました。
建物内部の混雑はたいしたことが無かったので、わりとのんびりじっくり見られました。「なんで女のひとみんな裸なのー？」というお子様の素直な疑問に答えられない母親がいたりして、ほほえましい雰囲気でした。以下、中学生のとき部活で技法やら美術史を多少勉強したはずなのにすべて忘れきっている人間による、非常に散文的で他愛も無い感想です。バロックらしさがどうとか、筆致がどうとかそういうのは無し。
宗教絵画は思ったより少なかったですが、やっぱりそれなりにありました。「6人の人物の前に現れる無原罪の聖母」は、背景に心霊写真のように溶け込む天使がちょっと怖かったです。「法悦の聖フランチェスコ」はタイトル同じで2点あり構図も似ているので、見比べたら面白いのですが、場所が離れすぎている。「川から救われるモーセ」と「ナイル川にモーセを遺棄するヨケベト」も、物語的には見比べたいけれど、描かれた時代とか考慮すると別物なんだろうな。「大工ヨセフ」は人だかりがすごくて遠くからしか観られなかったので、暗い背景にろうそくで照らしている顔だけがはっきりしているのが懐中電灯を下から当てているような不気味さでした。後で頑張って前のほうに行って観たら、足元の様子やら服やら精巧で力強く、宗教画っぽくないなと思いました。
「マリー・ド・メディシスの肖像」はサイズもでかいし、本人も背景も豪勢で派手で、権力の象徴のように感じました。自信に満ちた表情で、でかいだけに見下ろされてる気分になります。その後で「農民の家族」を観ちゃうと、その落差にうわってなります。犬まで痩せてて。「ルネ・デカルトの肖像」は、にやけたおっさんだなって。写真では何度か観たことある絵ですが、写真で観ると真っ暗な中に顔だけ浮かんでる感じがするのが、服も背景もかすかなグラデーションでしっかり描き分けられているのが観られて良かったです。「大工ヨセフ」もそうですが、暗い背景だと写真で観るのと違い過ぎるのでやっぱ実物だよなーと実感します。
「メランコリー」は怖すぎる。表情が。髑髏を抱えて。なにをそんなに思いつめているのか、静かなのに切羽詰った感じが怖い。「襲撃」とはまた全然違う怖さです。「襲撃」は、全体的には普通の風景画みたいな感じで、平和な山間の景色っぽいのですが、右下のほうで小さく略奪が描かれていて、静かな画面に暴力が当然のように紛れている感じが怖い。
「葡萄の籠」の葡萄はすげー美味そうでした。美味しそうと言えば「ムール貝を食べる少年たち」のムール貝、ガツガツ食ってますという様子でした。少年の足元にあるかじられたパンがまた美味そうなの。「ジョウビタキの巣」は、鳥の巣や全体よりもその下にある魚が気になって仕方ありませんでした。あれは刺身よりも鍋だね。「家族の陽気な食事」はあんまり美味しそうではありませんでした。
「一瘤ラクダの習作」は、なんでこんなところにいきなりラクダがいるの？ と唐突な感じがして違和感がありました。「歯を抜く男」も、他に風俗画が無いわけじゃないのですが、他のよりも日常度というか、生々しさというかが上回っていてもっと後の時代ならありそうだけど、みたいな違和感。
確かにフェルメール「レースを編む女」初来日は、おおおと思いましたが、でもフェルメール1点だけかよ、と寂しい気持ちにもなりました。元々ルーブルには2点だし、フェルメール展でもないのにたくさんあるわけ無いのですが。好きというほど好きでもないわりと、あの独特の雰囲気は気圧される感じがしてすぐ分かる。フェルメールで思い出すのは『ハンニバル』の続きに出てくるあのひとなんですが、それも変なのでいつも何も言えません。
今回の一番の目玉はもしかしたらフェルメールじゃなくて、音声ガイドの中尾彬の気もします。私は使ってないのですが、周囲から漏れ聞こえる声の渋いこと！ あとね、カタログ「こども手帳」が良かったです。表紙は「リュートを持つ道化師」でコミカルだし、解説も明るくて簡潔で分かりやすい。小学生の姪や甥がいるなら買ってしまいそうなお値段700円。
貰ってきた作品一覧を、自分メモってことで。
- ニコラ・プッサン「川から救われるモーセ」
- フランス・プルビュス（子）「マリー・ド・メディシスの肖像」
- ジャン・ブラン・ド・フォントネイ「金色の花瓶に活けられた花束とルイ14世の胸像」
- ピエール・ミニャール「ド・ブロワ嬢と推定される少女の肖像」
- ジョバンニ・フランチェスコ・グリマルディ「古代風の服を着た人々のいる川辺の風景」
- アブラハム・ミニョン「ジョウビタキの巣」
- レンブラント・ファン・レイン「縁なし帽を被り、金の鎖を付けた自画像」
- フランス・ハルス「リュートを持つ道化師」
- ニコラス・マース「婦人の肖像」
- へリット・アドニアーンスゾーン・ベルクヘイデ「アムステルダム新市庁舎のあるダム広場」
- アンブロシウス・ボスハールト（父）「風景の見える石のアーチの中に置かれた花束」
- ヨハネス・フェルメール「レースを編む女」
- ピエール・デュピュイ「葡萄の籠」
- フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ「婦人の肖像」
- ル・ナン兄弟「農民の家族」
- アニエッロ・ファルコーネ「トルコ軍と騎兵隊の戦い」
- アダム・フランス・ファン・デル・ムーレン「ライン川を渡るルイ14世の軍隊」
- 17世紀スペイン派「法悦の聖フランチェスコ」
- ピーテル・スナイエルス「プラハ近郊白山での戦い」
- 17世紀フランドル派「襲撃」
- ペドロ・ヌーニェス・デ・ビリャビセンシオ「ムール貝を食べる少年たち」
- 17世紀ローマ派「テーブルを囲む陽気な仲間」
- アドリアン・ファン・オスターデ「窓辺の酒飲み」
- ヤン・ステーン「家族の陽気な食事」
- ペーテル・パウル・ルーベンス「トロイアを逃れる人々を導くアイネイアス」
- サミュエル・ホフマン「果物と野菜のある静物」
- アラールト・ファン・エーフェルディンゲン「山岳地帯の川、スカンディナヴィアの景観」
- フランス・ポスト「ブラジル、パライーバ川沿いの住居」
- クロード・ロラン「クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス」
- ディエゴ・ベラスケスとその工房「王女マルガリータの肖像」
- バルトロメウス・ブレーンベルフ「手紙を持つ20歳の若者」
- 不明？ 「ルネ・デカルトの肖像（フランス・ハルスの原作に基づく）」
- ルドルフ・バクハイセン「アムステルダム港」
- ヤーコブ・ファン・ライスダール「嵐」
- アドリアーン・コールテ「5つの貝殻」
- ピエル・フランチェスコ・モーラ「弓を持つ東方の戦士（バルバリア海賊）」
- ピーテル・ブール「一瘤（ひとこぶ）ラクダの習作」
- ヤン・ファン・デル・ヘイデン「ブリュッセルのブルゴーニュ公旧城」
- アントーン・ファン・ダイク「プファルツ選帝侯の息子たち」
- ルカ・ジョルダーノ「コンパスを持つ哲学者」
- ドメニコ・フェッティ「メランコリー」
- ヤン・ブリューゲル（父）とその工房「火」
- ペーテル・パウル・ルーベンス「ユノに欺かれるイクシオン」
- ジョヴァンニ・フランチェスコ・ロマネッリ「アイネイアスの傷口にディクタムヌスの薬液を注ぐウェヌス」
- へリット・ダウ「歯を抜く男」
- ヨアヒム・ウテワール「アンドロメダを救うペルセウス」
- シャルル・ド・ラ・フォッス「プロセルピナの掠奪」
- バルトロメオ・マンフレディ（帰属）「羊を連れた洗礼者ヨハネ」
- アンニーバレ・カラッチとその工房「聖ステパノの石打ち」
- シモン・ヴーエ「エスランの聖母」
- ピエトロ・ダ・コルトーナ「聖母の誕生」
- カルロ・ドルチ「受胎告知 天使」
- カルロ・ドルチ「受胎告知 聖母」
- ドメニキーノ「洗礼者ヨハネを伴う聖母子」
- ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「大工ヨセフ」
- フランス・フランケン（子）「花輪に囲まれた聖家族」
- ヘンドリック・ファン・ステーンウェイク（子）「聖堂の内部」
- ルイス・トリスタン「法悦の聖フランチェスコ」
- バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「6人の人物の前に現われる無原罪の聖母」
- フランチェスコ・アルバーニ「鹿に変身させられたアクタイオン」
- ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオラ「聖エウスタキウスのいる風景」
- カーレル・デュジャルダン「モッラ遊びをする人々」
- ウィレム・ドロスト「バテシバ」
- ピエール・パテル（父）「ナイル川にモーセを遺棄するヨケベト」
- ヤーコプ・ヨルダーンス「4人の福音書記者」
- シャルル・ル・ブラン「『名声』に冠を授けられるマルスとウェヌス」
- フランス・フランケン（子）「キリストの受難」
- 17世紀ローマ派「聖ペテロの口述のもとに福音書を記述する聖マルコ」
- ローデウェイク・デ・デイステル「ヨハネス・デ・フォスの哲学論文を提示する天使と寓意像」
- ミシェル・コルネイユ（子）「天国の栄光（ピエール・ミニャールの原作に基づく）」
- グェルチーノ「ペテロの涙」