AP決勝見た
世間では柔道女子48kg以下級に話題が集まっていると予想されますが、ここはひとつ、同じく決勝が行われていたAP(エアピストル)について思うところを述べます。
優勝は中国、二位は韓国、三位は北朝鮮で、試合後に韓国の選手と北朝鮮の選手が握手をしていたのが印象的でした。っていうのも本当だし、7位になったフランス人がカッコ良かったのは思わぬ収穫でしたが、日本は予想通り二人とも予選敗退で、でも決勝を中継していること自体に喜んだ自分に悲しくなったんですよ。
APが弱いのは法律的な問題が大きいと思います。日本では銃刀法により銃砲の所持は厳しく制限されています。さて、日本で民間人に所持が許可されているエアピストル(法律っぽく書くと空気拳銃)は何丁だと思いますか?
答えは500丁です。「銃砲刀剣類所持等取締法第4条1項4号に規定する政令で定める者が行なう推薦の数を定める規則」(昭和46年5月20日国家公安委員会規則第6号)で、所持の推薦枠が500と決まっているからです。つまり、乱暴にまとめると競技人口が日本全国で500人ってことです。
ここでちょっと民間人がAPを所持するための方法を説明します。APの所持には一定の実績と協会の推薦が必要です。一定の成績とはARS(エアライフル立射)かHR(ハンドライフル)かBP(ビームピストル)での初段です。これは難しくありません。ARSの初段なら私も取った。問題は協会の推薦です。初段を取った後は、その500人の推薦枠をひたすら順番待ちします。許可が下りても、その推薦枠から外れると所持許可の更新が出来ません。推薦を貰い続けるには、公式試合に出てAPで初段、2段、3段と上がっていかねばなりません。一度外れるとまた順番待ちです。余談ですが、挿薬ピストル(いわゆる拳銃)の所持のための推薦資格はAPで4段を取ると得られます。人数制限は50人です。
APを所持しているのはオリンピック狙いで競技に励んでいるひとだけではありません。試合には出るし上手くなりたいけどそこまでは考えてない、というひとも多いです。この状況で若手が育つわけがありません。だいたい、20歳以下(協会からの推薦があれば18歳)は所持できないと法律で決まっています。だから警察か自衛隊になってしまうのです。正直なところ、私はこれでスポーツとして成立していることそのものがスゴイと思っています。
他人の銃を使うと不法なのでちょっとお試しとかも出来なくて、競技の裾野が広がる要素はまずありません。競技を行える場所が非常に限られているのも大きな問題です。だからお金もとてもかかります。そのうえ「えー? 射撃? 危なくない?」とか言われて世間の心象が実によろしくないのです。BPで良い成績を出したひとも、そこからAPに移行するのはたいへんです。才能ある若手が、500人の順番待ちでその能力を発揮する機会を逃していくのです。
もちろん、それでもやるひとはやるんです。どんな逆境でもやるひとはやるんです。それは他の競技でも同じでしょう。しかし、国家の方針として制限されているスポーツで、オリンピックのたびに「弱い」と言われてしまうのは、不憫だなあと思うのです。
で、決勝の様子なのですが、決勝独特の、アテンション、3、2、1、スタートで75秒以内に全員撃たなきゃいけなくて、いちいち点数を読み上げて、いちいち現状の順位を発表して、それからまた、アテンション……のあの運び、無理やり緊張感を高めるためじゃないかと邪推したくなりますね。点数も小数点以下まで出すし。あれ、決勝方式の練習も必要なのでたまに部活でもやっていましたが無駄に緊張します。
ああいうひとでもこういう場面で8点台撃っちゃうんだーとか、自分のペースで撃てる予選と違ってイラついている感じが見えたりとか、興味深かったです。集中していくところとか、撃てないときの表情とかね。
予選3位だった北朝鮮の選手が、決勝でやたら調子の良かったアメリカ人に追い上げられて4位に落ちたときの様子は怖かったですが、すぐに持ち直したのが見事で、せっかく追い上げたアメリカ人が逆に動揺して自滅したのは、やっぱ射撃は精神力だよなーと思わせる一幕でした。
これはもうライフルも見るぜ、と思いましたが、どうやら私が韓国にいる間にやるようです。ホテルでテレビを見るのは可能ですが、韓国語を理解するのは不可能です。ああ。
そうそう、柔道女子48kg以下級の表彰式を見ました。たいへん面白かったです。ヘーシンク氏がかけたメダルを、谷亮子さん以外はみんな直していた……(笑)